「過剰なサービスはなしとして、スタッフがメイドの格好をするだけです。ケーキ類がメインです。材料費の安いパウンドケーキ等を出すつもりです。メイドの衣装は、インターネットで安く手に入るとのことでした」
 
莫迦莫迦しい。自分で発言しながらそう思った。
 
クラスの誰かがHRに思いつきで言い、クラスの皆がそのアイディアに興味を示した。コスプレ、というものに飛びついたようだった。
 
誰も皆、他の誰かになりいたいという願望を持っているようだ。それは私だってそうだった。
 
乙女な南生のビジョンに立ってみたいと思ったこともあるし、身のこなしの軽い玖生になって人
生楽しくやりたいと思ったこともあるのだ。
 
それでも私は、メイドなんてものにはなりたいと思ったことはない。
 
当日は文実という立場で裏方に回ろうと思っている。

「なかなか面白い企画ですね」
 
私の思惑とは違い、メガネの委員長は笑みをたたえた。
 
メガネにひっつめお下げ、そんな委員長もまた“優等生”なる人格を捨てたいと思っているのだろうか。だから、メイド喫茶なるものを“面白い”と云えるのだろうか。

ひとは皆、誰かになって変わりたいという願望を持っているのだろうか。
 
教室の窓から見える浮雲が、やけに眩しく感じられた。