「何も心配することないじゃないの。ただ大人数でカラオケに行っただけでしょう? うちの学校には女しかいないけど、世の中は男と女のふたつの性別が存在するの。それがひとつの狭い空間に集まったからといって、何が不安なの。伊津くんは正直に話してくれたんでしょうに。自ら」
 
南生は洟をすすりながらも、こくん、と頷いた。

「誠実なひとじゃないの。大切に思われてるじゃない」

「誠実だったら、合コンなんて行かないわ」

「だから、それは人数合わせだったんでしょう? 彼は友人も大切にする、誠実なひとよ」

「……」 
 
南生は俯き、宙を見てぼんやりとしている。

「それとも、知らない方が良かった? 伊津くんが他の女子とカラオケに行っただなんて、正直に話してくれない方が良かった?」
 
南生は人形のように固まったまま、やがてゆっくりと顔を左右に振った。

「でしょ。伊津くんは南生を愛してるの。南生だって、愛してるでしょ」
 
南生の目が、私にフォーカスされる。やっと正気に戻ったようだ。
 
いつだったか、人伝に妹の玖生が男の前で泣いていたと聞いた。
 
玖生もきっと、恋を知ったのだろう。私はまだ、それを知らない。
 
瞳も乾いたままだ。