あ、来た。

猫がやってきた。

私は自分で作ったお弁当の中を見る。猫が食べそうなものは……。私は魚肉ソーセージを輪切りにしただけのものを手の平に乗せ、猫の口許へと持って行った。

茶トラの毛並みのいい猫は、くんくんと鼻をならしながら私の手の中のソーセージの匂いを嗅ぎ、ぐわりとそれをくわえた。
 
そしてそれを地べたにコロンと転がすと、ばくばくと首を震わせて、一心不乱に食べ始めた。

「美味しいかい?」
 
私は猫に話しかける。猫は私の言葉に反応せずに、身体全体でソーセージを食べていた。
 
私は、ランチはいつも一人でとっている。時折こうして、学校の敷地内でひっそりと飼いならされている猫が寄ってくる。
 
そんなひと時が私の唯一の癒しの時間だ。
 
誰の目にも触れない校舎裏で、お弁当を食べるのが、ほっと息をつけるひと時だ。
 
一緒にランチを食べる友達がいないのではない。クラスメイトの由実や有希には“ひとりでランチなんて、淋しくないの?”なんて言いながら、お昼時になると教室を後にする私を見送ってくれる。
 
静かで、誰もいなく、猫が寄ってきて、桜の木々の青々とした葉から、木漏れ日が漏れて気持ちがいいこの裏庭が、私のお気に入りなのだ。
 
群れから離れてひとりになるのが好きだという私は、変わり者、と言われればそうかもしれない。