「大地? ああ、そんなひともいたわね」
 
彼女はのんびりと云い、頬に手を当て、小首を傾げた。

「そんなひと、って……」

「私、今、別のひととおつき合いしてるの。大地くんはもう、過去の男なのよ」
 
さらりと云いのけた。私は脱力してしまった。あやうく倒れるところだった。泣き出すだろうと思っていたのだ。深く傷つけると思っていたのだ。それなのに、180度予想に反したその態度に、肩透かしをくらった。

「大地くんと、仲良くね」
 
にこりと微笑んで、一礼すると彼女は去ってしまった。
 
別のひととおつき合い……って、きっとまた一方的な妄想恋愛だな。
 
やれやれ、と私はため息をついた。とりあえず、彼女にショックを与えることにならなくて済んだからよかったものの。

「なんだ、よかったね、玖生。彼氏できたんだ」
 
ふと声がした。私が振り向くと、茂みから姿を見せたのは、私と同じ顔の――紗生の方だった。