この赤ちゃんのようにやわらかな手の感触に、私のハートはどっくんどっくん云ってて、その胸の鼓動を抑えるのに大変だった。

「南生ちゃん? どうしたの? 歯くいしばって」
 
ふと伊津くんが、歩みを止める。

「歯、痛いの?」
 
ふるふる、と私は顔を左右に振る。

「美味しい紅茶のお店があるんだ。行こう? ね?」
 
どうしてこのひとは、こんなにも物腰がやわらかいのか。そのやわらかいものが、どうしてこんなにも私の胸に突き刺さるのか。

「――あれ? もしかして、君……玖生ちゃん?」
 
私は弾かれたように彼を見た。
 
伊津くんはその黒い瞳を、真っ直ぐ私に向けている。
 
彼はさっと手を離した。
 
私のこころに翳りが走った。

「ごめん……手なんか繋いじゃって」

「えへへへへっ。バレちゃった?」