長女の南生とここでデートの待ち合わせでもしていたのだろう。
 
伊津くんは私たちが3つ子だということを知っているのに、見分けがつかないらしい。
 
たまたまこの場にいた、南生と似ている私――玖生を、南生と間違うのだから。

「行こうか。ごめんね、待たせて」
 
背は高いし、声も甲高い。だけどやわらかみのある声だ。甲高いとは言っても、耳にキンキンくるわけではなく、歌う時のファルセットのような心地よい声。
 
不意に、私は手を握られた。
 
びくん!
 
私の体が震えた。
 
私の先の数歩前を歩く彼は、私を振り返って、

「どうしたの? 照れてる?」

と、目を細めて私を見る。
 
そんな表情にさえ、どきどきする――。
 
私は、伊津くんのことが好きだった。
 
姉妹でも、男の子の好みは別れるって聞くけど、私の場合、そんなことはなかった。