それは、大地にあたまを撫でられていたからではなく、脳内に浮かんできた伊津くんに撫でられているような錯覚を覚えたからだ。

「辛いな、玖生」
 
ぎゅっと胸が締め付けられる。どうして目の前にいるこのひとは伊津くんじゃないんだろうって思う。
 
大地が私にしてくれる一挙一動を伊津くんに置き換えて、苦しくなってしまう。
 
私は大地の手を振り解き、その場につっ伏した。
 
紙ナプキンじゃ拭えないほど、涙していたからだ。
 
ハンカチなんて持ち歩く習慣はなかったし、私はシャツの袖の上に目を置いた。
 
それでも、店内の甘いドーナツの香りが鼻につく。
 
家で伊津くんの為にスコーンを焼く南生を思い出して、また大粒の涙が溢れ出した。
 
大地は、ずっと黙って私を泣かせてくれた。
 
ずっと、黙って。