伊津くんの鈍感な優しさとは違う。
 
大地は、私の涙を、雨を、吸う。
 
その名の通り大地の如く、受け入れてくれる。
 
ぽろぽろと、私の目から再び雨が降り出した。
 
私はナプキンで目を覆い、目を閉じながら話すことにした。

「私、好きなひとがいるの」

「へえ」

「でも、そのひと、南生の彼氏なの」

「うん……そっか」

「同じ顔してるのに、どうして私じゃダメなんだろう。だってぱっと見じゃ、私と南生の区別さえつかないようなひとなのよ」
 
先日だって、私を南生だと勘違いして、私の手を握った。
 
あの時の甘酸っぱい痛みを思い出して、私のささやかな雨は大降りになる。
 
私はナプキンをもう一枚、自分でテーブルの上から抜き取った。

「どうして私は南生になれないんだろう。彼に好まれるような。どうして私は紗生になれないんだろう。彼を見ても胸が痛くなくなるような――」