「森村くんに、涙、見せられない」

「うん。じゃあ、涙、とっときな。あとでいくらでも泣かせてやるから」

「うん――」
 
私は受け取った紙ナプキンで目頭を拭った。薄い紙が私の重い涙を吸い取ってくれる。
 
初対面で泣き顔を見られているから、私は大地の前で素直に涙を見せることができるのだ、きっと。
 
私ひとりでいる時も、対面しているのは自分だから、意地張っちゃって泣けないんだ。

「悪ぃ」
 
森村くんが携帯片手に戻ってきた。何だか急いでいる様子だ。

「イトコの兄ちゃんが家に遊びに来たから、帰って来いって母ちゃんから連絡入った」
 
森村くんは、私の涙の痕に気づかずにいるようだった。私はほっと胸を撫で下ろした。

「帰んの?」

「悪ぃ。急にチビ共連れて九州から来たんだって」