「機会があればね」
 
南生には伊津くんがいるし、紗生は男の子に興味なさそうだし、まあ、3人と対面することは実現しないだろうけど、と私は思いつつも森村くんの言葉に頷いた。

「俺、トイレ」
 
ふああ、と欠伸をし、森村くんがさっと立ち、行ってしまう。
 
テーブルには、私と大地の2人だけになった。
 
大地はチョコレートがコーティングされたドーナツに齧り付く。

「よくそんな甘いもの……。見てて、うげっとなる」
 
私はウーロン茶をするするとストローですすりながら云った。

「玖生の姉ちゃんたちも甘いもの苦手なん?」
 
チョコのついた口許を拭って大地は聞いてくる。

まだ3姉妹の話をするのか。私は辟易して息をつく。

「いや、苦手なのは私だけよ。南生はお菓子づくり好きだし、今日だって――」
 
私は自分で地雷を踏んでしまった。
 
今日だって、南生はお菓子を焼いていた。伊津くんのために。
 
伊津くんの、ために――。