――ヤメヤメ。
 
私はあたまを左右に振った。
 
もうこれ以上考えるのは嫌だった。
 
パッと気持ちを入れ替えようと、手にしていた財布の中を確認する。
 
今月、遊びすぎたから、お金残ってるかな。

「爪、綺麗だな。へえ、小指だけ赤にしてるのか」
 
頭上から大地の声が聞こえてきた。

「この間はカラオケルームで、部屋、暗かったからな。気がつかなかった」
 
笑みをたたえて大地は言う。
 
違う、あの日のネイルは剥げていたのだ。だから、爪の色に気が行かなかったのだろう。

「ピンク可愛いな」
 
ずきん、とその台詞に胸が痛んだ。
 
その言葉を私は待っていたのだ。
 
伊津くんの口から放たれるのを、期待していたのだ。
 
それを、いとも簡単に大地に云われてしまった。