「云わないよ。別に。女の子が泣くなんて、よくあることだし」
 
まるで女の子を熟知しているかのように、彼はさらりと言ってのける。
 
私と大地はカウンターに数人並んでいる最後尾につく。

「私、そんなキャラじゃないから」
 
女の子、と云われて私は嬉しくも何とも思わなかった。
 
自分でも自覚しているのだ。恋に悩む玖生なんて、玖生じゃない。

「……なんで泣いてたのか、聞かないでね」

「聞かないよ」
 
私の胸が、ずくり、とえぐられた。
 
あの時、涙していた時の感情を思い出してしまったのだった。
 
伊津くんの隣に、南生。
 
ふたりとも、ほんわかとしていて、どこか雰囲気も似ている。
 
一緒にいる時間が長いからそうなったのか。
 
顔の造りは一緒なのに、南生と私の性格は対極にあるのだ。
 
同じ色カタチをした宝石(いし)でも、自分の肌に合うものを、伊津くんは手の中に収めたのだ。