声を飛ばすと、私の脚はぴたりと止まってしまった。
 
ぴたり、と目が合ったからだ。
 
――伊津くんと。

「なんだ。寝ぼすけだな、玖生ちゃんは」
 
伊津くんは、革張りのソファに浅く掛け、私の姿を見るとにこり、と笑った。
 
彼は時たま遊びに我が家へやってくるのだ。
 
今日がその“時たま”の日だったのだ。

「なに、玖生。のこのこ起きてきて」
 
リビング対面しているキッチンで、紗生が洗い物をしながら冷たく放つ。

「玖生ったら、パジャマ姿でぇ」
 
南生が眉を顰めて云いながら、オーブンの様子を覗っている。
 
私はスタスタと伊津くんの座っているソファをスルーして、キッチンの姉たちの元へと行った。

「何作ってんの?」

「スコーンよ。この間作ったアプリコットジャムも試してみようと思って」
 
南生がのほほんと答える。もう私がパジャマ姿でいることに怒ってはいないようだ。