この香りの正体はきっと南生だ。
 
クッキーかパウンドケーキか、はたまたスコーンでも焼いているのだろう。
 
同じ3つ子なのに、私は料理なんてしない。食べる専門だ。
 
甘いものは嫌いだけれど、南生が作ったものなら甘さ控えめなので食べてやる。
 
学校の調理実習でさえ、玖生が持つと危険だからと包丁も持たせてもらえない。
 
お菓子を作る時の泡立て器とか、ふるいとか、後片付けがめんどくさいものを出してまで、何で南生は手作りのお菓子を作るのだろうと思う。
 
まあ、使い終わった器具は次から次へと手際よく紗生が片付けているのだろうけれど。
 
よっ、と声をかけ、私はベッドから起き上がった。
 
パジャマ姿のまま、階下へ下りていく。
 
ねぼすけ、と母や南生から怒られるだろうな、とか思いながら。
 
1階に下りると、甘い幸せな香りとともに、柑橘類の香りも漂っていた。
 
オレンジフレーバーの紅茶でも淹れているのだろう。
 
私はリビングのドアをカチャリと開けた。

「オハヨー。お腹空いたっ」