「古瀬! 立っていろと言っただろう!」
 
ジジイが私に喝を入れた。

「はあいっ。すみません」
 
私はさっと立ち、しゅっと背筋を伸ばした。
 
ジジイはふん、と鼻をならすとまた教室へと入って行った。
 
私は立ちながら爪を宙にかざした。
 
私の爪は小ぶりなのだ。小指は綺麗な楕円形だ。
 
同じつくりの爪を持っている南生も紗生もマニキュア塗ればいいのにと思う。
 
やれ校則に反するだとか、手入れが面倒だとか言うのだ。
 
確かに手入れは面倒だ。
 
ここ数日、私はネイルの剥げただらしない手で生活をしていた。
 
でも気になりだすと綺麗にしたくなるものだ。
 
私ははっと思い出した。
 
私、大地の前でこの気の抜いた指を見せていたのか。
 
いやいや、あんな一過性の奴はどうでもいい。
 
伊津くんの前でもあんな爪だったのだ。しまった。