私の言葉遣いに文句をつけたりもしない。この距離感。さすがにタメ口は憚れたけれど。

「古瀬の家、どっちの道だ?」
 
私は身体を浮かせ、周りの景色を見た。
 
車でごった返す大道路、並木道の間に立つ電柱。

「ここの道を左です。そう、大学病院の横です」

「はいよ」
 
先生は軽く返事をする。
 
どうやら教師スイッチがOFFになっているようだった。
 
やがて車は急速に速度を落とした。細い横道に入ったのだろう。
 
私はまた身体を起こし、背もたれにもたれかかった。
 
まだふらふらする。
 
風邪が二堂先生に移らなければいいのだけれど。

「あの辺か」

「はい」

「何か、人が立ってるな」
 
先生の言葉に、私はフロントガラスからその人影を注視した。誰かいる。