それよりも私が釘付けになったのは、二堂先生の笑顔だ。
 
いつもシニカルや笑いや、嘲笑するような顔ではなく、あけっぴろげなその表情に意外性を覚えた。なんだ、二堂先生、ちゃんと笑えるじゃないの。
 
あの性格を見せなければ、素敵な男性じゃないかと思った。
 
それは、口を利かないぬいぐるみが可愛く見えるのと一緒で、写真に写った先生は、イケメン俳優さんのブロマイドのように輝いて見えた。

「こらー! 何やってんだ! 早く席に着きなさい」
 
がらっ、と教室のドアが開き、1限目の古文の爺さん先生が入ってきた。二堂先生に負けず劣らず厳しい先生だ。
 
皆、蜂の巣を突くように教壇から降りて行った。
 
不意に、ひょいと私の手の中に落とされたものがあった。二堂先生の携帯だった。
 
返すのが面倒なのか、関わりたくないのか、どさくさに紛れてそれは私の手の中に残った。
 
私はそれをそっと制服のポッケにしまった。
 
そして、1限目が終わると、私はすぐに職員室へと向かった。