また紗生や玖生と間違えてる人が私を引きとめたのかしらと思ったけれど、振り返ってみると、そこには二堂先生が半笑いで立っていた。

「……先生……」

「廊下で携帯の通話禁止になってるだろうが。それをよくもまあ、職員室前で堂々とやってくれるなあ、古瀬は」
 
その先生の薄い唇の端が上がっている。
 
笑ってはいるが、怒っている。

「あの……急用でして……」

「そうか。急用か」

「失礼しました。さよなら」

 私は二度携帯を押収されるのを恐れて、何か言われる前にその場から滑るように逃げた。