私は職員室へ足を速めた。

「失礼します」
 
一礼して私は職員室へ入った。
 
窓際の席に二堂先生は座り、何やらテストの採点をしていた。
 
二堂先生の担当は化学で、私は選択で理科は化学ではなく生物をとっていたから、先生の授業を直接受けたことはない。
 
顔を合わせるのは、教室で行われる朝の礼拝と、帰りの礼拝の時だけだ。

「あの、二堂先生……」
 
私の呼びかけに、ふっと先生は顔を寄こした。

“二堂先生は、黙っていれば王子顔”誰かがそう言っていたのを思い出す。
 
確かにそうだと思った。切れ長の目がこちらを向いた時、どきりとした。

「なんだ、古瀬」

「あの、私の携帯を……」

「携帯を、何だ」

「あの、朝に没収されたのを……」
 
先生は赤ペンを置き、腕組をして言った。