混ぜたガトーショコラの液体をパットに入れ、オーブンで焼いて荒熱をとってから冷蔵庫に入れた。
 
いつもは紗生がやってくれていた洗い物をし、今日は全部自分で済ませた。
 
お菓子を焼いている間、直哉くんは鞄から教科書を出し、ひとり静かに熟読していた。
 
邪魔しちゃ悪いかな、テストが近いのかな、と思って、私はキッチンで料理本を眺めてお菓子が固まるまでの時間を遣り過ごしていた。
 
けれど、同じ室内にいるのに私は彼が恋しくなって、やがてリビングの彼の元へ近寄った。

「テストでもあるの? 今日、無理して遊びに来なくてもよかったのに」
 
ちょっとした嫌味が入ってしまった。

「ああ、小テストね。だけど範囲狭いから、教科書読んでるだけで覚えたよ」
 
にこにこっと彼は笑う。
 
私のこころはきゅんと甘酸っぱくなる。ベリーを口に含んだように。