直哉くんは私の背後から日誌を覗き込んで、どう書き間違えたの、と声をかけてきた。

「最後のとこ。今日一日の日直を終えた感想よ。楽しかったです、と書こうと思ったら、楽しかってですってなっちゃったわ」

「楽しかったの? 日直。面倒だったとか、特に感想はナシだったとかじゃなくて?」

「うん。伊津くんと一緒で、楽しかったわ」

「――」

「じゃあ、間違えた文字の上にうさぎの絵でも描きましょう。て、の部分を耳にして……できた」
 
そのうさぎの上に“た”と書いた。
 
私が描いたウサギは簡単なものだった。
 
目は点、鼻も点で、πのような口を描いた。そして漫画のふきだしをつけてそこに“た”と書いたものだった。

「かわいー」
 
小さな悲鳴が聞こえたかと思うと、私は直哉くんに後ろから抱きつかれていた――。
 
それから、私たちの小さな恋は始まったのだった。