彼は紗生と玖生に面識があるから、私に対してはフレンドリーに接してくれていた。

“古瀬さん”なんかじゃなくて“南生ちゃん”と呼んでくれていた。
 
私は私で、彼に対していくばくかの好意をすでに持っていた。
 
そのやわらかな笑顔、物静かな性格、物言い。
 
乱暴でやんちゃな同学年の男の子とはどこか違う雰囲気に魅かれていた。
 
こうして放課後2人きりになっても、どこも気まずいところもなく、むしろ心地よい感じがした。

「ふーむ」
 
私が日誌を書いて唸っていると、窓締めを終えた直哉くんが、どうしたの、と私の元へやってきた。

「伊津くん、消しゴム持ってるかしら? 字を間違えちゃって、私、今日消しゴム忘れてきちゃったのよね」
 
すると彼は目をぱちくりとさせた。

「あぁ、奇遇。僕も今日忘れちゃってさ」

「あら、奇遇」