彼はにこにこしながら、彼女に優しい言葉をかける。

「ファンデーションなんて若いうちから使うと年とってから肌がぼろぼろになるっていうよ。玖生ちゃんたちは皆、素のままで可愛いよ。」
 
玖生はにまっと笑い、目をぱちぱちとしばたいて見せた。

「そう? じゃあ、つけまつげとか、マスカラとかどうかなぁ」

「玖生ちゃんのまつげは元々長くてくるんとしてるじゃん。いいんだよ。そのままで充分可愛いんだよ」
 
ボウルの中の溶けたバターとチョコを、泡だて器でしゃかしゃかとかき回しながら私は思う。
 
私以外の女に“可愛いよ”なんて声をかけないで欲しい。
 
玖生のまつげが見えるところの距離で話さないで欲しい。
 
私は別の金属製のボウルに卵を割り入れ、グラニュー糖を加えてハンドミキサーをかけた。
 
ギュルルンという大きな音で、直哉くんたちの会話は聞こえなくなったけれど、玖生は大きくバンザイをし、紗生はゲンコツを顎に当て、ふむふむと何やら頷いている。
 
直哉くんはにこにことやわらかい笑顔を振りまいている。