私はそんなことを思い出しながら、膝の上にのせていたお弁当箱から卵焼きを箸でつまむと、そのまま森村くんの口許へと運んだ。

「ん？」
　
彼は戸惑って見せたけれど、そのまま卵焼きをぱくりと口の中へ入れた。

「甘い卵焼きだな。――俺、好きだよ」

「甘いものがご飯のおかずにならないっていう人いるけど、私も卵焼きはしょっぱいのより甘いのがいい」
　
こんな上っ面の会話をしながら、お互いその真意を模索していた。
　
私たちは、待っていた。
　
その言葉を、その瞬間を――。

「イヤ、俺はしょっぱい卵焼きがいい。チーズとか、きんぴらごぼうが入ってるのがいい」

「え？　だって、今、好きって……」

「俺が好きだって言ったのは、紗生のこと」
　
ついに出た。
　
自分から出るか、彼の口から出るのか、そのタイミングを、私たちは待っていたのだ。