背中に背負っていた軽いリュックがぶらぶらと揺れるほどに、私は全速力で走っていた。
 
涙を振り切るように、伊津くんへの思いを振り切るように、あてどなく走っていた。
 
と、その刹那――。
 
がしっ、と二の腕を掴まれた。
 
大きな、力強い腕だった。

「――!?」
 
私は驚いて、その腕を掴んだ主を振り返る。
 
サラサラの髪、整った顔立ち、いわゆるハンサム系の男の子だ。
 
北高の制服を着た、見知らぬ子だった。
 
私は思わず立ち止まる。
 
すると彼は何も言わずに、制服の袖でごしごしと私の目頭を拭ってくれた。

「何――」
 
何するの、と言いかけたところを言葉で遮られた。

「君、女学院の玖生だろ?」
 
泣きじゃくっていた私とは正反対に、彼はにこにこと愛想よく笑っている。