私はアイスを彼に手渡し、そう伝えた。

「いいの。絶叫マシーンなんて乗らなくたって。その代わり、観覧車、一緒に乗ろう」
 
ぐい、と彼は私の手首を引いた。

「私、高いところダメなんだ。観覧車だって、小学1年以来乗ってないもの」
 
昔、両親が南生、玖生、私たち3人を連れて遊園地に来たことがある。
 
観覧車って、怖い、そんな理念が植えつけられている。
 
南生は空中から見える景色に惚れ惚れしていたし、玖生はやいのやいのはしゃいでゴンドラを揺らしていたけれど。私はゴンドラが落ちやしないかと不安だった。
 
ほんと、3つ子とは言えど、三者三様だったのだ。

「大丈夫。怖くないから」
 
ぐいぐいと彼は私の体を持っていく。

「怖いわよ」

「――空がね、綺麗なんだ」
 
彼は優しく諭すように云った。

「空がね、綺麗なんだよ。俺、紗生に見せたくて」
 
そう言って彼は自分の鼻の下を指で拭った。