「意味があるんだよ。何事にも。文実だって、俺と放送室っていう密室で2人きりになるように神様が仕組んだんだ」

「……何言ってんだか」

「ははは」
 
彼は風のように軽く笑うと、黙り込んでしまった。
 
そうね、彼と出会ったから、こうしてこんな大空を仰げるスポットにも出会えることができたんだわ、とふと思った。
 
こんなにも綺麗な空気を吸ったのは久しぶりのような気がする。
 
透明で、どこまでも色のない、クリスタルな空気。
 
ふあぁぁぁ、とまたあくびの声がした。
 
彼は、森村くんは、あくびをすることで、大きく息を吸い、吐いているのだ。
 
そうだ、彼は空気を吸うために、深呼吸するために、あくびをするのだ。
 
あくびのためか、隣で寝転がっている彼の吊り気味の目尻に涙が溜まっているのが見えた。
 
綺麗で澄んだ空気を吸い、そして彼は呼吸していることに涙しているのだ。
 
私がそっと近づいて、指でそれをすっと拭ってやると、彼は驚いて見せた。