「自由」
 
私は繰り返した。
 
単純で最も難しい言葉のうちのひとつだ。

「私は……高校生じゃなかったら、自由になれるのかなって考えることがある」
 
私は雑草が脚にまとわりつく不自由を感じながら吐いた。

「昼間っから何もしないで、こうやって大の字に寝転べるような生活を送れたら、きっと自由で楽しいんじゃないかって思う」
 
ふあぁぁぁ、と森村くんのあくびを耳元で聞いた。でも、気にすることはない。彼は退屈しているのではなく、あくびは口癖のひとつだと云っていたのを覚えている。

「そんな生活じゃあ、退屈しちゃうよ。今、お前が読んでいる本だってそうだろう? リストラにあって、時間を遣り過ごしている男の本。ある程度の縛りがあった方が生活らしい生活になるってもんだ」

「――」
 
言葉を無くした私に、森村くんは慌てて付け加える。

「まあ、あんたは忙しすぎだな。委員会や何やらで」

「雑用ばかりよ」