多少、イライラはしていた。しかし、彼の唐突な質問で、こころの中に空を描くことができてから、私のこころはすうっと透き通った。
 
ぼんやりと異空間へ行ってしまった私に、彼は慌てる素振りを見せた。

「ごめん――俺も、好きだよ。空見上げんの。あの雲はどこから来たんだろう、とか、無数の星々は青空に溶けてどこへ身を隠しているのだろう――とかね」
 
私は即座に答えた。

「私もそう思う」

「人間なら誰しも思うことだよ」
 
さらりと言われ、私は肩を落とした。
 
そうか、誰でも思うことなのか。私だけの大切な感情だと思っていた。
 
大切な感情。

「今度、一緒に空を見に行かないか?」 
 
真面目な顔で彼は云った。
 
プラネタリウムに行こう、ならまだしも、空を見に行こう、だなんて。
 
何だか素敵な誘い方だと私は感心した。
 
また、同時にそう思わせるのが彼のやり口なのか、とも。

けれども私は嬉しかった。素直に、嬉しさを覚えたのだった――。