森村くんは、あくびした口を手で押さえる。

「いや。俺のあくびは口癖みたいなもんだから」
 
のけぞっていた森村くんは、姿勢を前屈に崩し、両膝の中にゲンコツを入れて続けた。

「紗生の趣味って何なの?」
 
またも唐突に彼は言い出す。
 
不思議と私は、このひとを跳ね除けることができないでいた。
 
力ずくでその文実法被の身包みを剥いで、ぎゅうぎゅうと背中を押して放送室から出て行かせることもできたはずなのに。
 
またはここを彼に任せてしまって、私の方から放送室を出て行くこととか――それはできないか。いつアナウンスの依頼が来るか解らない。

「ねえ、紗生の趣味って何なの?」
 
まるで蛇のようにまとわりつく彼。私は渋々答えてやることにした。

「空を見ること」

「ああ、あの雲、ドーナツに似ている。美味そうだな、とか?」
 
森村くんは私を茶化した。