「違うわ。リストラにあって、途方に暮れている男の話。私、恋愛小説は理解できないから」
 
恋愛なんてものをしたことがないから、共感などできないし、したいとも思わない。そういった類の本には、入り込めないのだ。もっとも、リストラにあったこともないけれども。

「じゃー、リストラ男の気持ちは理解できるから読んでるのか?」

「うるさいなー」
 
この男は、私をひとりにさせてくれない。やれやれと思いつつ、私は読書を諦めた。

「面白いのよ。公園で途方に暮れている男が、どうやって有り余る時間をやり過ごそうとしているのか。どんな思考をあたまに思い浮かべようとしているのか」
 
私の力説にも、森村くんはふあぁぁぁとあくびとし、呟いた。

「暗いな、お前」

「何とでも」

「同じ姉妹でもこうも違うんだ。面白いな。玖生も紗生も。一緒にいて退屈しないのは同じだけど」

「今、あくびしたじゃない。退屈してるんじゃないの?」