「文化祭なんて抜け出して、映画でも行かないか?」
 
口説き文句だ、間違いない。私は確信した。

「俺、紗生のこと気に入っちゃった」

「何を唐突に……。私、別にそんなこと言われても嬉しくないから」
 
私は素っ気無く返した。
 
軽い男だ。
 
もっとも、玖生の知り合いなのだから、彼女みたいな部分も持ち合わせているのだあろう森村くんは。
 
私は手持ち無沙汰になり、鞄から一冊の本を取り出した。
 
ぺらぺらと栞の位置を探し出し、そして羅列された文字に目を落とす。

「何? 何読んでるの?」
 
思ったとおりだ。森村くんは目ざとく絡みついてくる。

「本よ」
 
私はうっとうしくて冷たく言い放つ。

「恋愛小説とか?」
 
それでも彼は絡みつく。