「そうだな。紗生は紗生だもんな」
 
彼は目を細めて私を見る。笑うと瞳がなくなる。代わりにその三日月のような目の脇には細やかな笑い皺ができる。
 
性格だけでなく、表情にもどこか人懐こさを覚えた。

「所作が違う。表情の造りも違う」

「――さっき、よく私が紗生だって解ったわね」
 
初対面なのに、あれには少し驚いた。

「なんか違ったもん。なんつーか、紗生には透明感があった」

「……そう」

「玖生と南生さんの違いは解らなかったなー。クソ」

「なんで南生だけ“さん”づけなの?」

「だって南生さんは初対面だもん」
 
しれっと言う森村くん。

「私とだって、初対面でしょうーが」

「そうだけど。紗生とは、初めて会った気がしない」
 
口説き文句なのだろうか、これは。私は考えてしまった。