わたしの前に座った直ちゃんは、しばらく無言のままぬるくなったジュースを飲んでいた。

わたしは、この一ヶ月考えていたことをゆっくり頭の中で整理して、
言いたかったことを口に出そうとした。
いろいろあるけど、最初に言ったことは

「メール、ごめんね。」というばかみたいなことだった。

「メール?」

「うん。迷惑やったでしょ。あほみたいなことばっかりで。
章子さんもおるんやし、他の子からメールなんかいややったでしょ。」

ちょっとどもりながら、それでも泣かずに言うことができた。
ほんとうにばかみたいだと思われるだろうが、
ずっと楽しい気分でメールをしていたことを考えると、自分が惨めで悲しくなるのだ。

「いや、うれしかった。」

「うれしかった?」

「うん。自分がどんどん間違った方向に行ってるのがわかってたから、
みーちゃんのメール、すごいうれしかった。
自分にもまだこういう普通のこと、教えてくれる子がおるの、うれしかったよ。」

「ほんま?」

「ほんま。」

そう言うと、直ちゃんは少し気分が軽くなったみたいだ。

少し笑うと、目を伏せて、

「こんなこと、いい加減やし、それこそみーちゃんをだますみたいに思われるやろうけど、やっぱり、おれはみーちゃんのこと、大事やねん。」

と、半ば自嘲気味の、それでも優しい口調で言った。

「大事…?」

「うん。ほんま、ずっと助けてもらったしな。」

「助けるって、わたしのほうが助けてもらってたよ。」
ずっと、ずっと。
震災のときも、直ちゃんがいるだけでわたし安心してた。

「この前は、うちのこと話そうと思ってた。
恥をさらすようやけど、うわさで聞くよりはいいと思ったから。」と、うつむいている。

「わたし、ぜんぜん知らんで、結局直ちゃんにいやな思いさせたね。」と謝った。