コンクリートで作ったテーブルと椅子に座って食べた、その日のお肉はおいしかった。

「安い肉やけど、ちょっとした下ごしらえで見違えるようになる。」と
りゅうさんが自慢げに言うと、
留美ちゃんが本当に感激したみたいに、「すごーい。こんな人と結婚したい。」と言った。

えええ?

直ちゃんも私もびっくりしてしまって、

「藤原さん、酔ってる?早まったらあかんで。そう簡単に人生投げたらあかん。」とあわててその考えをたしなめる。

車で来たから、という理由でアルコールもないのに、直ちゃんってば動転してる。

「留美ちゃん、どないしたん?」と聞くと、
「女ばっかりが家事やらなあかんっていう男はきらいやねん。」と言った。

そうか、井上はそんな奴だったのか。

りゅうさんが、「まあ、女やからっていうだけで家事ができるとは限らんからな。
うちのオカンは味噌汁もまともに作らんからなあ。」と言う。
直ちゃんが苦笑していた。

それにしても、普段だったら憎まれ口のひとつでもたたくだろうに、
へえ、今日はなんだかいつもと調子がちがいますこと。
まあ、留美ちゃんはわたしとちがって美人だけどね。

あの夜のことは、お互いもう触れないことを暗黙のうちに了解しあっていた。
わたしがかわいそうに見えただけのことだろうし、
わたしのことを好きだなんて、うそなのはこの人もわかっているはずだった。

食事を終えて、紙コップやら箸やらをゴミ袋に入れる頃には、
さすがにもう太陽は海の向こうに沈んでしまっていた。

「留美ちゃん、ちょっと散歩しよか。」と、りゅうさんが留美ちゃんを海のほうへ誘う。
留美ちゃんは、何か少し考えて、すぐにりゅうさんの意図がわかったみたいだ。
もちろん、プロポーズの続きではない。

「ええけど、変なこと考えんでよ。」と、さっきのせりふは忘れて、つれないことを言いながら、二人は海へ歩いていった。

「おもしろい子やな。」と直ちゃんが後姿を見ながら言う。

「うん。高校のときはしゃべったことなかってんけど、今は一番の友達。」と、私は言った。