須磨か明石くらいだと思っていたのに、淡路まで行くという。
朝7時に迎えに来るというので、

あほが、張り切って。

泊まりに来た留美ちゃんに言うと、

文化祭とか、体育祭とか、やたら張り切るやつおったよな、と言うので、
まったくだと思った。

翌朝6時半に電話が鳴って、大急ぎで支度して出ると、
眠そうな直ちゃんと、真っ赤なアロハシャツにサングラスのりゅうさんが待っていた。

「チンピラみたいやな」と、留美ちゃんがこそっと言ったので笑ってしまう。

そのチンピラに留美ちゃんを紹介すると、
いつもの憎まれ口ではなく、「吉崎です。」と挨拶したのでそれもおかしかった。

直ちゃんはわたしに、「久しぶり。元気やった?」と、少し気まずそうに話しかけてきた。

直ちゃんに他の人がいるとわかっていても、やっぱり会えるとうれしい。
いつもより大きな声で、「うん。元気やで。」と答えると、
「おれも。」と、直ちゃんはほっとしたみたいに笑った。

車で明石大橋を渡るときに、
りゅうさんが中学校時代に経験した「恐怖体験」を話し始めた。

中学生のときも海が大好きだったりゅうさんは、
部活の友達5人と明石の海に泳ぎに行った。

一人が大きな浮き輪を持ってきていたので、
みんなでつかまって泳いだ。

「みんなテンションあがってもて、めちゃくちゃ足ばたばたさせて泳いでてん。中学生ってけっこうパワーあるねんよな。

気が着いたら海岸がめっちゃ遠くになとって、人がこんな(といって、親指と人差し指で1ミリほどの隙間を作って見せた。)小さく見えてん。

対岸の淡路が目の前に見えるし、足は当然つかへんし、
このまま遭難するかと思った。

帰ろうと思っても、変な流れがあってなかなか前に進まへん。

一人が、死ぬかもとか言い出して、
心細くてほんま、もう終わりかと思った。」

わたしたちは大笑いしながらその話を聞いて、
直ちゃんがすごく真剣に、

「ええ機会やったのに残念なことしたなあ!」と言った。

わたしが「ほんまに。」と言い、初対面の留美ちゃんまで「そやけど、他の子に罪はないで。」なんて言いだして、
朝のぎこちない雰囲気はすっかりどこかへ行ってしまった。