昼間はあれだけ混む一号線も、もうほとんど車がいない。

「落ち着いたか?」と、車が海沿いに出たあたりでりゅうさんが言った。

この人とここを通るのは二回目だな、と思った。
前に来たときは、海がとてもきれいで、わたしは何も知らない無邪気な子どもだったというのに。

明石大橋のライトアップもとっくに終わったみたいで、無骨な鉄筋の影だけが夜の海に浮かび上がっていた。

「ありがとう。」

「ええで。実を言うとな、おれも最初はめちゃくちゃ泣いた。」

「りゅうさんが?」

「おう。」

何回もあいつを殺してやろうと思った。
せやけどおかしな話でな、それまでおれは、時々オカンが再婚すればいいのにと思ってた。
おれはいつか出て行くんやし、オカンの幸せっちゅーやつもあっていいと思ってた。

なのに、あいつはなんでか許せんでな。
同じ年の奴がオカンの隣におると、別の子どもにとられてまうような気がしてたんかなあ。

そう言って、りゅうさんは海沿いの空き地に車を停めた。

不意に体がシートに押し付けられて、りゅうさんがおおいかぶさってくる。

あれ、と思うのと同時に、唇に柔らかい感触とたばこのにおいが落ちてきた。

「ん…。」

また涙が出たけど、何かを言う気力はもうなくて、ただ目をつぶる。

しばらくそのままでじっとしてて、それから、りゅうさんはゆっくり体を離した。

普段は見せない優しい目で、「な、おれと付き合お。」と言った。

「わたしのこと、好きなん?」と聞くと、
「あかんか?」と問い返された。

うそつき。

りゅうさんが好きなのは直ちゃんだ。
りゅうさんは直ちゃんになりたいんだ。

直ちゃんになって、お母さんに甘えて、愛されたいんだ。
だからあんなに執着して、一緒に暮らすようなことをしてるんだ。

直ちゃんのものを欲しがってみたところで、
わたしは直ちゃんのものではないのに。
そう望んでも、もうなれることはないのに。

そう思うと、この頭のいい人が自分にまでうそをついているのが悲しかった。