そのうち、隆司は朝までいることが多くなった。
ある日夕飯にパンを出してやると、
「いっつもこんなもん食べとるんか?」と激怒された。

一人のときはラーメンかパンをかじるくらいだと言うと、
「変なもんばっかり食べとるからあほになるんや。」とまた怒られた。

そんなもんかな、と思っていると、
翌日、隆司は買物袋を下げた姿でドアの前に立っていた。

2DKで家族用のその部屋には、ガスコンロが二つある。
隆司は、その前に立って器用に鍋で米を炊き、
焼き魚と炒り子からだしをとった味噌汁、野菜サラダを二人分作って出した。

そんな料理を人と食べるのはずいぶんと久しぶりだったので、
直ちゃんは笑顔で、「ありがとう。」と礼を言った。
「そんな顔するな、気持ち悪い。」と、隆司が言ったから、
きっと本当にうれしそうだったんだと思う。

その夜、二人で寝転んでいると、「オカンのどこがええねん?」と
やや軟らかくなった口調でたずねられた。

そうやなあ、と考えて、
章子さんは優しくて、自分のことをわかってくれて、一緒にいられるだけで、
自分にも価値があるような気がする、と答えた。
結局自分のことばっかりやな、ごめん。

黙っているので、たばこをすすめてやると、
優等生の隆司はきっと初めて吸ったんだろう。

むせそうになっていたけど、必死でそれを隠しているみたいだった。

一月ほどそんなことが続いて、
「お前がオカンを裏切ることはぜったいに許さん。
もし裏切ったら殺してやる。」と宣言された。
なんだか認めてもらったような気がして、
「うん。頼むわ。」と笑って言うと、
「ほんま、お前頭おかしいな。」とあきれられた。

ようやく、水曜日に章子さんに会うことができた。
もう学校が始まっていたから、夕方に来て、
「やっぱり、もう会わんとこう。」と言われた。

そうなることを予想していたけど、
章子さんの声で聞くとどうしようもなくなって、
考えていたせりふの半分も言えなかった。
それでも、必死で泣いてすがって、
一晩中章子さんにしがみついてすごした。

自分を抱きながら震えている背中を、章子さんは優しくなでる。
そして根負けしたように、
「直くんが必要な間はいてあげる。」と言ってくれた。