しばらく章子さんからの連絡が途絶えた。
電話をしても、忙しいから、と簡単な話しかできなくなった。

やっぱり隆司に反対されてるんやろうな。

自分が逆の立場だったら、と考えたけど、
自分と母親の関係は、隆司と章子さんの関係とは違うはずだから、想像もできなかった。

ある日、アルバイトから帰ると、部屋の前に隆司が立っていた。

日が暮れていたので、「あほは遅くまで働かなあかんねんな。」と言われた。

「まあな。」と答えて鍵を開けると、一緒に中に入ってくる。

黙って通して、インスタントコーヒーを出した。

それから、お前やったらいくらでも選べるやろう、とか、
オバハンだましておもしろいか、とか言われたので、
ひとつずつ、きちんと否定した。

次の日もやってきて、今度はオカンはお前のことなんかぜんぜん好きじゃないと言われた。
そうかも知れんな、
もしかしたらかわいそうに思ってるだけかも知れんな、と思ったから、
「そうか。」と答えた。

次の日も、次の日もやってきて、
あるとき、どこから調べてきたのか、綾人のことを引き合いに出されて、
「お前とはえらい違いらしいな。」と言われた。
「生まれつき違うみたいやな。」と答えた。

その頃、幼馴染のみーちゃんと、時々メールのやり取りをしていたから、
それも見つかって咎められた。
「あほのくせに、一人前にフタマタか。」と言われたけど、
大事な妹のような子であることを説明した。

貸せ、と携帯をひったくって、しばらく画面を見ていた隆司は、
「お前、ようこんなん相手しとるな。」と携帯をほおり投げた。

みーちゃんからのメールは、グリコのお菓子の話だとか、
やせたとか太ったとかそういうことばかりだ。

隆司にとってはくだらないことだったかもしれないけど、
家族とくだらない話をしたことがない直ちゃんにとっては、
メールが来るのは楽しみのひとつだった。

だから、「楽しいで。」と答えて携帯を拾い上げた。
隆司はあきれたような顔をして、それからはメールが来ても何も言わなくなった。