「かばったつもりか。」と聞かれたので、
「別に。」と答えた。

「かっこつけやがって、」と
中学生のときと同じ理由で、また殴られそうになったが、
さすがに章子さんが間に入って、息子の頬をたたいた。

「いい加減にして、隆司。ちゃんと話す。」と言ってから、
こっちを向いて、
「今日は帰るわ。」とはっきり言い切った。

今度も、「うん。」としか言いようがなかった。

まさか、隆司にしたってこんな人間と母親が付き合っているとは考えもしなかったんだろう。

すると、隆司は、
「いや、おれはこいつと話がしたい。」と言った。


3人で、直ちゃんの部屋に行って、
直ちゃんは自分と同じ年の章子さんの息子に、名前を名乗った。

他にも何か言うべきだと思ったが、何を言っていいかわからなかった。

「で、どういうことなん?課外授業とかそういうやつ?」と聞かれたので、
「いや、もう卒業した。」と答えた。

それから、自分の通っている専門学校と、4月からアルバイトをし始めた店の名前を言った。

進学率の高い学校に通っていた息子は、それを鼻で笑った。

「で、そんな負け犬が何してるんや、っていうてるねん。」

「そんな言い方やめ!何をえらそうに言うてるの?」と母がたしなめる。

「いや、ほんまのことやから。」と笑顔を見せて、

「おれ、ほんまにあほやけど、章子さんのことは本気やから。
できることはなんでもする。
少しでいいから、おれと会うこと、許して欲しい。」

お前が一番なんや。だから、ちょっとだけおれにも章子さんを分けて。

「頼む。」と、それだけを言って、手をついて頭を下げた。

「いい加減なこと言うな。お前みたいなちゃらちゃらした奴が本気とか、
ようそんな口からでまかせ言えるな。
オカン、ぜったいこいつにだまされとるって。」

章子さんは無言だった。

「とにかくあかん。あかんって。
ぜったいおかしい。」と、結局話し合いは何も生産せず、決裂に終わった。