その後、三日ほど学校を休み、夕方まで眠った。
夕方には父が帰ってきてくれるのが心強かった。

父が言いにくそうに、実は綾人が突然いなくなったという話をした。
それで、神戸に戻っているかと母は急いで帰って来たのだそうだ。

そのこともあるし、お前のせいだけやない。

父としては、少しでも息子の負担を軽くしようと思ったようだったが、

なんや、結局綾人のことか、と思うだけで心の重さは何も変わらなかった。

学校に戻っても、吉崎には母のことは話さなかった。

しかし、最悪なことに、数日後に退院した母が学校に来て、
「担任の先生に息子がだまされている」話を校長にした。

吉崎は校長室に呼び出されたが、
実際には何の事実もなかったので、校長は「気をつけてください」としか
言いようがなかったと後で聞いた。

ただ、文化祭でのことはみんな見ていたし、
「あの三浦が」あんな風に怒るんだから、とひまな生徒たちがうわさを流し始めた。

救いだったのは、高校に入ってからずっと仲のいい友達が、
同情が3割、好奇心が7割といった表情で、
「三浦ももの好きやなあ」とだけ言って、それからはその話題を口にはしなかったことだ。

父と話し合って、
専門学校の学費と、部屋を借りるための敷金と礼金、
それから学生の間は生活費を出してくれるという約束を取り付けた。

生活費の件は、バイトを始めたら自分でなんとかする、と言ったが、
それくらい親に甘えろ、と父は譲らなかった。

いくつか資料をとりよせて、準備の間に合う日程の専門学校を選んで受けた。
やっぱり、第一候補だった製菓の専門学校に進学を決めて、
卒業式を迎えることができた。

卒業式の日、吉崎には小さな紙切れを渡した。
文化祭の日以来、ずっと事務的な会話しかしてなかったので、
それも事務的に手渡した。

それには、美香さんが父の代理で買ってきてくれた、
新しい携帯電話の番号を記してあった。

卒業してから、長い一週間が過ぎて、
携帯電話が鳴ったときは、死んでもいいと思うほどうれしかった。