道をどんどん下り、車は海へ出た。

神戸の街は、山と海にはさまれた細い帯のように伸びている。
坂だらけではあるけれど、
車でちょっと走れば海も山も、両方に触れられるこの街がわたしは好きだ。

りゅうさんは、海沿いの国道に出て少し東へ走り、
堤防沿いに建っているレストランに車を停めた。

「わー。かわいいー。」

一階の部分が駐車場で、向かって右側のらせん階段を登った二階がお店になっている。

イタリア料理を出すお店だそうで、レンガの外壁がとてもすてきだ。

分厚い木のドアをあけると、海がきれいに見えて、
明るい光が差し込んでいた。

大きな木のテーブルにチェックのクロスがかかっている。
ゆったりした、田舎っぽい感じで、ほっとできる気がする。

外で食事なんて、ファミレスかファーストフードくらいだったので、
こういうお店に入るなんて、急に大人になったみたいでうれしい。

昼を少し過ぎた時間で、平日だというのに店内には何組ものお客さんがいた。

「そろそろ来はるかと思ってました。」

顔なじみらしいウエイターのおじさんが、直ちゃんにそう言ってから、

「彼女?」

と聞く。

ちょっと、おじさん。その答え、聞きたいような、聞きたくないような。
直ちゃんが答える前に、おじさんは立て続けに質問をした。

「めずらしいやん。いつもの子はどうしたん?」

「おるで。」

りゅうさんが後ろから来て声をかける。

邪魔したらあかんやんか、とおじさんは笑って、
ちょうど空いたという窓際のテーブルに
わたしたちを案内してくれた。

四人がけのテーブルに、直ちゃんとりゅうさんが並んで座る。
直ちゃんが窓際に座ったので、わたしも向かいの窓際に座った。
向かい合ったほうが、直ちゃんの顔が見えるからいいや。

大きなガラスの向こうに、さっきの明石大橋が見える。

「みーちゃん。何にする?」

直ちゃんがメニューをこっちに向けて聞いてくれた。

「なおのおごりやから死ぬほど食べてええで。」

そんなにたくさん食べません。