こんなところを見られたくなかった。
ぜったいに、母は変な解釈をするはずだ。

なんで、と言ったきり話せなくなってしまった直ちゃんに、
なんでじゃないでしょう。早めに帰ってきたら、悪いことでもあるの?
だいたいどうして、先生がここにいるの?

詰問しながら近寄ってきて、
直ちゃんの手を引っ張った。

それから吉崎に向いて、

「あんまりうちの子に妙なことを吹き込まないでください。」と言った。

思わず母の手をふりほどき、

「妙なことってなんや。」と声をあげてしまった。

「ほっといてくれ。今までずっとそうやったやないか。
なんでいらんことだけかまうねん。」

言い始めると止まらなくなった。

「お前には綾人がおるやろう。
おれのことなんかずっと嫌いやったくせに、なんでほっとってくれんのや。」

いつの間にか涙が出ていた。
あれ、なんで泣いてるんだろうと思ったけど、
理由がわからないから止めることができない。

吉崎が車から降りてきて、

「三浦!」と、体の左側へ来た。

思わずその肩にすがるように手をかけてしまう。

吉崎が反射的に身を引いたので、それが反動になって、
両肩を引き寄せて、顔をうずめて泣いた。

母はあっけにとられている。
父が出てきたとき、
吉崎はひとつため息をついて、泣いている子どもの体をゆっくりと離した。

「お母さん、ほんまはお母さんのところで泣きたいんですよ。
泣かせてあげてください。」と、母の方へ向き合うように直ちゃんを押した。

そうか、おれは母のところで泣きたかったのか。
ずっとずっと、こう言いたかったのか。
ちょっとだけ、ちょっとだけでいいから、おれのこと、好きになって。

「う…。」