急にそんなことを言われて、びっくりして声が出ない。

ちょうど赤信号で車が停まり、吉崎がこっちをじっと見ている。

もしかして、先生もおれのこと、好きなんかな。
それにしても大胆やな。

多分、今自分の顔は真っ赤だろうと思う。
耳までが熱い。

そんな顔を見て、吉崎がははは、と声をあげて笑った。
車がゆっくり進み始める。

「なんで笑うん?」

「いや、勘違いやったら申し訳ないと思ってんけど、
そうみたいやから、うれしいもんやなと思って。」

「うれしいって言うた?今。」

「いや、まあ、どうかな。」

今度はふふ、と笑ってから、いつものまじめな声に戻った。

「三浦くん。
気持ちはありがたいけど、三浦くんは勘違いしてるだけやで。
学校なんか狭いもんやから、なんとなく近くにおるだけでポーっとなってまうことは
よくあるねん。
第一、三浦くんかて、卒業したらわたしのことなんか忘れてまうで。
そういうもんや。」

決まったせりふを読み上げるように言う。

あまりにもよどみなく言うので、反論のしようもなくて、

「はあ、そういうもんですか。」と答える。

吉崎はまた、今度は心底おかしそうに笑った。

「三浦くん、そういうときはたいてい、そんなことない、とか言うもんやで。」

「たいていってどういうこと?」

「まあ、どういうことやろな。」

「他にもこんなのおった?」

「まあね。」

すまして言うので、直ちゃんも一緒になって笑い始めた。

「そうか、章子さん、案外ともてるねんな。」

「何それ、章子さんって。」

「章子さんは章子さんやん。自分の名前やろ。」

時々、想像の中で章子さん、と呼びかけたことがあった。
そのときは、どうしようもない罪の意識と苦しい恋心があったが、
こうやって言ってみると、実にあっさりとしていて、
その響きがかわいらしく思えた。

ついでに、言えそうにないと思っていたことを言ってみる。

「章子さん、好きや。」

「あほ、調子にのるな。」