直ちゃんは、吉崎をあからさまに避け始めた。

3年生からのクラスメイトは別段何も言わなかったけど、
2年生のときからの友達には、
「吉崎に何か言われた?あいつ、ときどきむかつくこと言うから、
あんまり気にせんときや。」と言われた。

だから、「ほんまにむかつく。」と答えてあとは何も答えなかった。

秋の文化祭で、といっても平日に行われるごくごく内輪のものだったが、
浮かれた生徒たちが中庭で殴り合いのけんかを始めた。

真っ先に見つけた吉崎がとめに入ろうとする。

その生徒たちは1年の子だったけど、
吉崎なんかよりずっと体の大きな男子生徒だ。

あほが。ほっとけばええねん。

頭ではそう思ったのに、とっさに、直ちゃんはその中に割って入った。
一緒にいた友達が、ぽかんと口をあけている。

お前に関係ないやろ、生徒が言って、吉崎の肩に手がかかったとき、
かっとなってそいつの体を突き飛ばした。

なんやお前、と胸倉をつかまれたところで、柔道部の川崎がやってきて、
全員取り押さえられることになった。

川崎というのは30代の男の先生で、
「へらへらして女みたいな」直ちゃんを嫌っていた。

「三浦くんはとめに入っただけです。」と吉崎が言っても、
突き飛ばされた生徒の言い分だけをきいて、
直ちゃんも処分の対象になった。

体育教官室に連れて行かれて、延々と説教をされて、
高校最後の文化祭は終わった。

母親を呼ぶと言われたけど、その日も家にはいなかったのでそう言うと、
担任の吉崎が車で送ることになった。

「わざわざええで。」と断ると、

「寄り道せんようにや。」と言われた。

吉崎の、なんの飾りもないシルバーのワゴン車の中で、「なんであんなことしたん?」と聞かれたので、

「だって、先生、殴られたら痛いやろ。」と答えた。

おれは十分知ってるから、とは言わなかった。

夕方のラッシュの時間だったから、車は遅々として進まない。

「三浦くん、」と吉崎が口を開いた。

「わたしのこと、好きとかって思ってる?」