あかん、このままやったらあかん。

頭ではそう思っても、感情が跳ね回って自分ではどうすることもできなくなりそうだ。

日常のちょっとした行動に、

先生やったらどうするかな。

そう考える自分がおかしいと思う。

息子さんがいてはるって言うてたな。
おれと同じやったら、先生にとっては子どもみたいなもんなんやろうしな。

そう思うと、会ったことのない隆司というそいつまで憎たらしく思えてくるから、
もうどうしようもない。

3年生になるときは、成績の順番でクラス分けがされて、
直ちゃんがいた上から2番目のクラスの担任は、また吉崎章子になった。

3年生になると、もう先生とはあまり話をしなくなった。

その代わり、教壇に立つ先生をじっと見るようになって、
ときどき目が会うと、先生の方から視線をはずすことが多くなった。

夏休み前に、本格的な進路相談が、保護者を呼んで行われた。

そのときも母が来て、
吉崎に、

「また先生ですか。」といらだちを含んだ口調で言った。

兄の綾人が通った学校は、進学率が実に90パーセント以上だったから、
専門学校だの、就職だのという選択肢は聞かれることはなかったのだ。

「直人は男の子だし、浪人させてもいいと思ってるんです。」

相変わらず、自分の主張だけを続ける母である。

浪人なんて勘弁して欲しい。
あの家にいるのはもういやなんだ。

月に十日ほど、綾人の世話をすると言って母は東京の実家に戻る。
その間、なぜか美香さんがごはんを作りに来てくれたりした。

社長がいなくても、この人がいれば会社は大丈夫。
そう言われている美香さんは、
話が面白い人で、母よりも好感がもてるので、それがまたいやであった。

吉崎は途中で、「三浦くんはどうなんや?大学進学も考えてもええと思うけど。」と言ったけど、
「いや、ぼくは早く働きたいです。」と答えた。

「そんなの、ろくな就職なんてないのよ。
直人のためを思って言ってるのよ。」なんて母が言いだしたので、面談は茶番に終わった。

夏休み、母は予備校の夏期講習の資料を取り寄せていたが、
きちんと勉強をすると約束して、
学校の補修に通うことを許してもらった。