「なあ、先生、ケーキ屋さんってどう思う?」と言うと、

吉崎は目を丸くして、

「なんや、三浦くんも料理が好きなんか?
近頃の男の子はわからんわ。」と言う。

きくと、吉崎先生の息子も料理が得意で、
遅く帰ってもきちんと食事が用意されているのだそうだ。
先生の子はやっぱりちょっと変わってるみたいだ。

「ええけど、しんどいで。」と言う言い方で、
吉崎は生徒の夢を否定しなかった。

なんだか、今までがうそだったみたいに学校が楽しくなって、
「三浦くん、変わったね。話しやすくなった。」とクラスの女の子に言われた。

そうかなあ、と答えたけど、
確かに、人と話すのがおっくうではなくなったことに気づく。

吉崎とも話す機会が増えた。

秋が終わる頃には、時々、放課後の教室で家族の話なんかもして、
ずいぶんと先生のことを知った気分になった。
もちろん、他の生徒も交えてだけど、
直ちゃんと先生が話す時間はどんどん増えていった。

制服が冬服になった頃、隣の席の女の子から手紙をもらって、
きちんと読んで返事をした。
ごめんな。あんまりそういう風には考えてなかったし。

丁寧に言葉を選びながら、今まで読まずに捨ててしまった手紙のことを考えると、
とてもとても申し訳ない気持ちになった。

ええねん。言っておきたかったから、と彼女は言う。

そのときは、直ちゃんも、ぼんやりとだけど、
気持ちを伝えてみたい人がいたから、
「言っておきたかった」というのがよくわかった。