少しだけど、不登校の時期があったことと、
教師たちに、無気力な子どもと評価されていたことが、
内申点を悪くすることになった。

とりあえず、入れる高校に入学を決めた時点で、
母の理想とする人生からはみだしたことが確実になった。

父は、「直人には好きなことをさせてやれ。」と母に言う。

そうだよな。
会社は綾人が継げばいいもんな。

そう考えると気持ちが楽になった。

高校に入ってできた友達には、たばこを吸うことを教えてもらった。
みんな、彼女を作ることに熱心になっていたけど、
女の子と遊ぶことはやっぱり苦手だった。

「三浦が一緒やったら行くって言うねん、頼むわ。」なんて、
何人かで休みの日に会うこともあったが、
誰かとまじめに向き合うなんて真っ平だと思っていた。

人と向き合うことは、何もない自分と向き合うことだからだ。

2年生のクラスにも友達が何人かいて、
また表面上は穏やかな日々が始まるはずだった。

ただ、担任になったのが「吉崎のババア」だったことだけがみんなの憂うつの種だった。

とにかくうるさいと評判で、
服装とか、持ち物とか、厳しくチェックされるらしい。

まあいいや。

ヒステリックな女には、母親で慣れているし、
何事も黙ってやり過ごそうという性分は変わっていなかった。

「吉崎のババア」は、うわさどおり小うるさいおばさんだったけど、
決して話のわからないような堅物でもなかった。

まだ40代で、背筋がぴんと伸びた、
生活のにおいがしない人だった。