中学校に入ると、ときどき女の子から手紙をもらうようになった。

普段は自分に関心を示さない母が、そういうことをかぎつけたときだけは
部屋に来るようになった。

「そんなことを気にしているひまがあったら勉強をしなさい。」

父親に似た自分が、「そんなこと」に興味を持つのを嫌がる気持ちはわかったから、
バレンタインの日も、二つ、もらったチョコレートを帰宅途中のコンビニで捨てた。

二年生になったとき、他のクラスの女の子から告白された。

その子は、学校でも目だつ派手なグループにいて、
他の男の子と付き合っていると話では聞いていた。

だから断ったけど、なんだかしつこく誘ってくるので、
ときどき学校帰りに一緒に公園で時間を過ごしたりした。

春休み、母は兄と一緒に新しい塾の見学に出かけていった。

家でぼんやりしていると、彼女から電話があって公園に呼び出された。

そこで、彼女は真剣な顔で、
「わたしのこと、好き?」と聞く。

好き、と聞かれて、思い浮かんだのは引っ越していったみーちゃんのことだったから、
「わからん。」と答えると、ぱちんと頬をひとつたたかれた。

とてもひどいことをしたような気分でうちに帰ると、
門の前に少し大きくなったみーちゃんが立っていた。

とたんにうれしくなったけど、それが現実に思えなかったから、
必死で、「なんでこんなとこおるん?」と問いかける。

みーちゃんは夢なんかじゃなくて、おばさんとこっちに遊びに来たと言った。

しばらく、みーちゃんの学校のこととか、友達のことなんかを聞いていると、
自分もあのあたたかい家族の一員のような気分になった。

夕日が大きな、きれいな夕方だったことを覚えている。