「これがまた、手のかからん子でな。ものすごい親孝行な子どもやった。」

と、りゅうさんは自慢そうに言っている。

無言で、目を伏せたままごはんを食べ終わった直ちゃんが、
「りゅう。」と名前を呼んで手を伸ばす。

りゅうさんが、「一本吸うたら元通りやで。」と言いながら、持っていたたばことライターを手渡した。

直ちゃんってたばこ吸うんだ。

ライターの炎を手でかばいながら、くわえているたばこに近づける。

それがとても手馴れているので、いまさらながらに彼のことを何も知らないことを思い知らされた。

「半年か。ようもった方ちゃう?」

「うるさい。明日からまた禁煙や。」

わたしは出してもらった料理にほとんど手をつけていないが、
二人もそれをとがめようとはしなかった。

おれが中学に入ったときにオカンが
駅の近くのマンションに引っ越すことにしてん。
中学生の男子に、自分の部屋は必要やからな。

その頃、オカンは中学校の先生から高校の先生に変わってた。
あれ、試験あるんやろ。
ほんま、仕事の好きな女やで、あいつ。

その校区内では、「下の上」という高校に転勤になって、
「下の上」の生徒たちの教育に熱心に取り組んでいた。

おれよりも生徒さんの方が大事なんやないかって、ときどき思ってたけど
まあ、仕事やからしょうがないか、と納得してた。

仕事が一番でおれが二番。
それやったら我慢できたけど、三番になるのはいややったわ。
何が一番なんかは知らんけどな。

それを聞いた直ちゃんは、たばこの煙を吐き出しながら
「章子さんはいつだって、お前が一番やで。」と言った。